2023/9/3

忘れないうちに感想。『アステロイド・シティ』初日には行けず、公開2日目に日比谷に観に行った。思っていたよりかかっている映画館が少ない。最初に公開された海外版トレイラーのみの前情報だったのもあって、設定も進行もかなりわかりにくく他の作品に比べて難解。でもめちゃくちゃ繊細でよかった。それぞれのキャラクターの意味や目的もあってないようなものだから見にくいけどそれこそがはみ出しものの肯定になるような優しい映画。「タイミングは(いつだって)悪いものだ」「眠らなければ目は覚めない」みたいな示唆的なセリフを一生懸命拾いに行くけど平面的で圧倒的にかわいい画や俳優たちの顔、いちいち緻密なショットを観てるだけで満足させてしまう唯一無二の力。理解力が乏しいせいでチャプターがどの層のことを指しているかもあんまりわからず、もはや面白くはなかったけどみんなで同じものを見上げたり、子どもが何かに熱中してたり、孤独な大人たちが会話を試みたりそういう希望や切なさが心に残る。勢いもドラマ性もないから人気作にはならなそうだけどどうなんだろう。途中演技論みたいなのもあったけどウェスの映画でそれをやるのはギャグ的な感じなのか、あの箱庭でさらに観客を混乱させるためか、キャラクターの悩みというただピュアなテーマとしてなのか、よくわからない。ただ考えれば考えるほど良い映画だったような気がしてくる、魔法だ。。

渋谷のヒュートラで『ママと娼婦』を観た。ユスターシュは中央図書館で半分寝ながらしかみたことがなかったから映画館で観れて嬉しい。220分、内容的にも途中退室ありえるかと思って観に行ったけど誰ひとり抜ける人がいなくてそれもおかしいだろと思った。移動撮影がないからとにかく風通しが悪く、時間が進むにつれ死の気配が濃くなってきて気分としては劇場内に徐々に一酸化炭素が充満してくような息苦しさ。人中心のショットが多かった印象だけどレオが好きだからぜんぜん観れる。アレクサンドルがシャンソンを歌うところとかは最高。空っぽが故に2人の女の間でどんどん疲弊していく様子もいい。途中それぞれ1箇所だけ、正面から捉えられたアレクサンドルや「娼婦」たちが涙ながらに語る言葉も空虚で、時代差なのかわからないけど響くところが全くない。「ママ」が部屋でひとりでレコードを聴いて頭を項垂れてる姿はさすがにかわいそうだった。

『バービー』も公開2日目に観た。グレタ・ガーヴィグは本当に良い仕事をしてる、ありがとう。これを全世界の子どもたちが楽しく観てほしいと本当に思う。ただ現実はまじの本当にずーっと“kendom”。これがメジャー映画であることが重要で、あなたたちがわかるよう、相当チューニングあわせて作ってくれてるのにそれがわからないということが恐ろしい。女は男の為に存在しているのではないということがそんなに嫌か。『リトル・マーメイド』やマリオにあった親子の力関係も否定されていてよかった!産まれた時点で孤独だけどそれは自由でもあり、何からも支配されてはいけないということ、またそれとは別に愛は存在できるということがちゃんと描かれてた。サントラも良い。バービーやケンに性器がついてないことについて触れた北村紗衣のバービー評が面白かった。車が宙に浮いて回転するようなチープなCGとか冒頭で『2001年宇宙の旅』をなぞったりしてる感じはグレタ・ガーヴィグの若干寒いギャグと思えばむしろそれはそれで良い。“見られること”を意識しないでいられる安心安全なバービーランドに産まれてたら何もかもが違っただろうなとか考えてしまった。もっと年齢が上だったら、老いや死についてフォーカスして観ることもできたかもしれない。

追記

『アステロイド・シティ』、ユーモアのセンスがこれまでと比べて皮肉というよりダウナーになっててよかった。